【すず屋探訪記】笛吹と深沢七郎 ④終
そして僕は途方に暮れる。
ひとつ残らず君を 悲しませないものを 君の世界の全てにすればいい。
無い、石碑なんて無い。
木と草と疎に在る住宅しか無い。
「無い」という存在と非存在の無限分割可能性を超越した存在論を否定するこの様を今どう考えるべきか。
夕暮れ舞う風と山の静寂が僕を優しく包み込む。
半分諦めかけて帰宅の途に着こうとし、黒坂里道を一本外れ、ゆっくりと惰性で周囲を眺めていると、
「あっ、あった!」
急に現れた石碑。
黒坂里道の入り口付近、と言えば付近だが、もはや入り口がどこかもわからない、もしくは存在しない入り口に対する付近、頭が混乱する中、深沢七郎の唄も僕を優しく包み込むので、僕も負けじと優しく包み返す。
「楢山祭りが 三度来りゃよ 粟の種から 花が咲く」
「塩屋のおりんさん 運がよい 山へ行く日にゃ 雪が降る」
やっとの思いで見つけた石碑、感慨深いものがありました。
石和の人間が境川の人情に触れて好きになり、楢山節考の舞台としたというなんともローカルな裏話。
写真と頭に焼き付けて帰路につきました。
石碑の場所 (赤い印のところ)
完